『電気がなければIT設備は動かない』

2013年3月 1日

NPO ITC中部副理事長 磯部秀敏

日本の電力を真面目に本気で考えよう。

 2011年3月11日、1000年に1度と言われる大地震が発生した。この影響で、日本で最も旧式の原子力発電所が放射線を放出する大きな事故を起こしてしまった。このことは、「日本の原発は安全であるという神話」で隠していた原発リスクを露呈することとなった。大いに反省すべき点がいくつかあるのは確かだが、だからと言って、いきなり、原発はゼロだ!というのは、あまりにヒステリックで短絡的である。世界はそんなことを望んでいない。失敗から学んだ日本が、更に安全な原発を完成させ、世界にこれを普及させて貢献することこそ、世界が望んでいることである。このまま、日本が原発から手を引いてしまえば、韓国や中国が世界の原発開発の担い手となり、安全性で日本より劣る原発を世界中に建設することになる。その方が恐ろしい未来が待っていると考える。日本人は、もっと冷静に、地球的視点でものを見るべきだ。

 しかし、このように実際に3.11後の福島に行ったことがない者が主張しても、放射線の被害を受けた方々は納得できないであろう。時間が必要かもしれない。また、国や電力会社がもっと深く反省し、今回の事態に至った原因を納得できるレベルまで追求し、絶対に同じ過ちは繰り返さいことを約束し、これに国民が同意できるような状態にならなければ先に進めないのかもしれない。


 過去には、イギリスで世界初のジェット旅客機デハビランド・コメット機が、1952年の就航からからわずか2年後、フライト中に相次いで空中爆発したことがあった。この時のイギリスの首相チャーチルは、「イングランド銀行の金庫が空になっても事故原因を徹底究明せよ」と命じた、と言われている。この結果、金属疲労テスト方法の欠陥が見つかり、その知見が、現在の飛行機に生かされている。このとき、人類が、こんなに多くの方々が亡くなった危険な飛行機を使うことをやめるという判断をしていたら、今のような便利な時代はやってこなかったかもしれない。


 福島で被災した方々には誠に申し訳ないと思うが、人類が発展するためには、ときには犠牲も必要である、という視点ももって頂けたら幸いである。もちろん、その犠牲は最小限にしなければならないし、できれば犠牲無しで済ませる限りない努力は必要である。


 そういう前提で、国際的なリスクも見ていかなければならないと思う。
 北朝鮮が原爆実験に成功した?かもしれない現時点では、ウランやプルトニウムをすぐ使える状態にしておく必要がある。そうでなければ、北朝鮮から原爆攻撃を受けた際の報復の手立てが全くない、という事態になりかねない。

 更に、中東に目を向ければ、ホルムズ海峡・原油絡みのリスクも大きい。イスラエルはいつイランに対して原爆攻撃を加えるかわからない。そうなれば数十年ホルムズ海峡が封鎖されることになるであろう。ホルムズ海峡ルートでの原油輸入に大半を依存している日本は、そのような事態になった時、原発を稼動させていなければ、原油価格の大幅高騰により、日本の経常収支は壊滅的に悪化する。この時、日本の国債は大暴落し、日本経済は崩壊するだろう。

 このように、地球規模でリスクを考えれば、原発ゼロというのは、いかに日本崩壊のリスクを高める政策であるのかが見えてくる。失敗学の畑村先生も似たようなことをおっしゃっていた。失敗して引いてしまってはいけないのである。失敗を乗り越えてこそ、日本に明るい未来があるもののと信じる。

 今後、自然エネルギーによる発電も進展はしていくであろうが、原発の代替となるまでには相当期間が必要であり、それまでの間は少なくとも原発を残しておく必要がある。いや、原油が入ってこなくなるリスクを想定すれば、原発は現時点より増やす必要すらあると思う。電気がなければ、もちろんIT設備は動かない。ITCも活躍の場を失うかもしれない。ただでさえ、ITで遅れを取った日本が電気・原発でも遅れを取れば、失われた20年どころではなく、永遠の没落国となってしまうだろう。そんな日本にしては、我々の子孫に申し訳ない、と思う。

 安倍政権には、是非、短期的な経済政策のみならず、地球的視野からの納得性の高い電力政策を、冷静に勇気をもって語ってもらいたいものである。

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