ITC中部 監事 ブランドデザイン委員会委員 中井 豊
マイナンバーが記載された通知カードが全国各地に発送され、早くも1年が経過しようとしている。今後、税と社会保障の一体化改革により、その利用範囲が徐々に広まりつつある中、いま一度、マイナンバー制度に関する留意点並びに企業に及ぼす影響及び課題について確認すべく、現時点の最新情報をまとめてみよう。
1 現在におけるマイナンバー制度の進捗度について
平成28年1月より、税と社会保障に関わる各種申告及び届出において、マイナンバーの記載義務がスタートした。具体的に、雇用保険資格喪失をはじめとする手続きや住民票の異動などでマイナンバーの提出が義務化されます。
2 個人番号カードの申請手続きについて
一般的に、市役所等の窓口で申請する方法が多く、または、企業等がまとめて申請を行うこともできます。中には、一定規模の従業員を雇用する企業に限り、自治体の職員が企業等の事務所等に出向き手続きを行っている自治体もあるようです。
3 従業員以外の方々のマイナンバーを収集する方法について
普通郵便の方法で収集すれば大丈夫です。その際は外側から中身が見えない封筒にして郵送してください。
4 マイナンバー制度の本格的な運用が始まったときの労務管理上の問題
国内には社会保険料の支払いを逃れている企業が数多くあるといわれているようです。報道によれば、社会保険料が未加入であると疑いのある企業は約79万社になるといわれ、企業自身のマイナンバーを用いて当該企業を探る動きがあります。仮に、年金事務所が行う調査で未納の事実が明白になった場合、さかのぼって追徴されることもあります。詳しくは年金事務所または社会保険労務士に相談してください。
5 マイナンバーの保管方法の一例について
企業は、従業員から収集したマイナンバーは、事務処理の必要がある場合にかぎり、保管することができます。
例えば、マイナンバーの情報をパソコン等に保存する場合には、次の3点に留意します。
⑴社内規定を定め、管理責任者以外は、登録・編集・削除など、できないように禁止する。
⑵ID、パスワードの管理を徹底する。
⑶ファイアウォールを強化し、社内外のネットワーク環境の管理を徹底する。
他方、マイナンバー記載用紙を保管する場合には、次の3点に留意します。
⑷鍵のかかる書棚等に保管する。
⑸鍵を管理する責任者を定め、運用規定を作成する。
⑹マイナンバーを利用した具体的な記録をとる。
また、従業員が退職したときや不動産賃借契約を解約したときは、個人番号を廃棄する必要があります。その場合、2度と復元できないようにシュレッダー等を用いて処分すべきです。そして、パソコンに保存されているマイナンバーの情報も必ず削除しなければなりません。その際に廃棄、削除した記録も残すべきでしょう。
6 マイナンバーの提出を拒否された場合の対処方法について
税と社会保障に関して提出する一定の書類へのマイナンバーの記載は法律で定められています。国税庁の見解は、マイナンバーの提出を拒否した場合には、拒否した経緯を記録し、保存するよう推奨しています。
7 通知カードの写しを漏洩してしまった場合について
マイナンバーを漏洩してしまったときは個人情報保護委員会と漏えいの対象者に速やかに連絡すべきです。漏えい件数が1000件以上で、かつ、不正目的での漏えいが起こったときは、個人情報保護委員会への報告が義務づけられています。報告後、個人情報保護委員会から必要なアドバイスを仰いでください。
故意でなければ、漏えいしてしまったことのみで刑事責任を問われることはありません。ただし、安全管理に問題があると見なされたときは損害賠償の対象となります。個人番号は「特定個人情報」であるため、漏えいしたときは漏えいを起こした当事者のみならず、企業側の責任も問われます。日ごろの安全管理を徹底すべきです。
8 平成27年10月現在で海外赴任を理由として国内に住民票のない人が国内に帰国したときのマイナンバーの手続きについて
国内に帰国し、市町村等で住民の登録をした後、通知カードが随時発送されます。
他方、国内に住所を有している人が国外へ出国するとき、市町村などの窓口に通知カードを返却します。
9 企業が今後直面することになるマイナンバーの関係業務について
正社員、契約社員、パートおよびアルバイトの入退社時などによる扶養家族の異動がある場合には、マイナンバーを収集することになります。
特に、扶養家族のうち、従業員本人が単身赴任しており、別居の親や子どもが含まれている場合も要注意です。例えば、子どもが住民票を移さずに大学などに通学している場合、マイナンバーは住民票の住所に届くため、住民票は現住所に異動しておく方が確実です。
また、今年の年末調整に関しては、税理士や弁護士等に支払った支払調書にマイナンバーを記載して提出する必要があります。個人の場合、マイナンバーを申告してもらい、かつ、運転免許証等を用いて本人確認を行います。
10 マイナンバー制度の今後
平成29年7月以降、「マイナポータル」が開設されます。これは、行政機関が個人情報などを管理するポータルサイトです。たとえば、確定申告時の控除証明書などを電子で提出したり、行政機関からのお知らせを受け取ることができるようになるようです。
さらに、平成30年には金融機関に預けている預金口座のマイナンバー管理もスタートする予定です。そうなれば、生活保護の不正受給や脱税など未然に防止することが可能です。現行では預貯金でのマイナンバー管理は任意スタートになりますが、将来的には義務づけられる可能性が高いでしょう。
また、今日では就労資格のない外国人を日雇い雇用している企業があるそうです。個人番号は国内国外を問わず国内に住民登録されれば自動的にマイナンバーが交付されます。したがって、就労資格のない外国人は国内に住民票がないため、マイナンバーは交付されないため、マイナンバーを付番する書類については、個人番号欄を空欄にして提出することになります。ただし、個人番号を提出できない理由がある者として警戒される恐れがあります。今後、マイナンバー制度に基づき、これまで看過されてきた事柄にメスが入れられることは確実でしょう。
(参考文献)
梅屋真一郎「マイナンバー制度のいま」『戦略経営者・㈱TKC』(2016年10月)
内閣官房「マイナンバー」HP掲載資料http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/
(2016年10月確認)