ITC中部 副理事長 マッチング事業委員会委員長 秋山 剛
1.はじめに
2016年7月22日に「ポケモンGO」が日本でも配信開始され、2016年6月31日までに1738万人(総人口の14%)がインストールし、大ブームとなった。
その後遊ばなくなった人も多いようだが、現在でも400万人程度のアクティブユーザーがいるようである。
大ブームの影響で、マナー違反者などの問題が大きく取り上げられ、「ポケモンGO」に否定的な意見も多く耳にするが、このままある程度の人気が継続し、また同様な後続アプリなどが参戦することになれば、有益なITツールとして見逃すことができない。ITコーディネータとして「ポケモンGO」の魅力と活用方法について考えてみる。
2.IT技術面から見た「ポケモンGO」
「ポケモンGO」にはAR技術が使われている。AR(Augmented Reality)「拡張現実」とは、人が知覚する現実環境をコンピュータにより拡張する技術およびコンピュータにより拡張された現実環境そのものを指す言葉である。
「ポケモンGO」ではGoogleマップのAPIを使用し、現実のマップ上にポケモンが出現し、ポケモン捕獲時にはカメラ映像と一体となり、あたかも現実世界にポケモンが出現したかのような状態になるなどのAR技術を使用している。
AR技術を活用したアプリは「ポケモンGO」が初めてではなく、日本では2009年に日本人が開発した「セカイカメラ」が登場し、2014年1月に終了するまでに300万ダウンロードを記録している。
「セカイカメラ」はカメラに映し出された現実世界に、その建物や場所などに関する「エアタグ」と呼ばれる付加情報を表示するアプリで、イベントと連携するなど各種のマーケティング活動にも活用された。ITC中部においても2010年に”iPhoneプロジェクト”の一環でセカイカメラを用いた「日本モンキーパーク・デジタルガイド実証実験」を実施した。
またセカイカメラ開発者は、2010年に「セカイユウシャ」という位置情報をもとにしたARオンラインRPGを世界で初めて開発した。このゲームは、「ドラクエ」に似たゲームで、現実世界を勇者が旅をして、各地のアイテムを手に入れたり、モンスターと遭遇してバトルを行い、経験値を稼ぐものであった。
Googleマップとの連携はないものの「ポケモンGO」とコンセプトは同じである。ただし、当時のiPhone(私は3GSを使用していた)では、動作が重く、アプリもすぐ落ちるといった課題もあり、ブームを巻き起こすことはできなかった。
「ポケモンGO」も若干動作が重いこともあるが、ようやくハードがAR技術の活用に追いついてきたと言える。
3、「ポケモンGO」をマーケティングに活用
「ポケモンGO」の特徴として、これまでのゲームと大きく違うのは、ゲームをする人が外に出て現実世界を歩き回らなければならないという点である。
これまでにも人気ゲームは数多く登場し、ゲーム画面にCMを流すなどによりマーケティングに活用されていたが、「ポケモンGO」は人を特定の場所に誘導することができ、これまでのように情報を伝えるだけのものから、直接集客が期待できるツールと成り得、これからのマーケティング戦略を大きく変える可能性がある。
既に「ポケモンGO」を活用したマーケティングを実施した事例が登場しており、「大阪旭区の千林商店街」では、商店街のイベントに活用し、商店街にある11か所のポケストップすべてにイベント中にルアーモジュールと呼ばれるアイテムを使用し、ポケモンの出現率を高めることで集客を実現した。
これだけのルアーモジュールを使用するにはアイテムを購入する必要があるが、アイテム代として使用した費用は計2万8800円であり、集客効果から見れば費用対効果は十分にあったと言える。
「山形の小野川温泉街」では8月6日~31日の期間で「ポケモンGOで小野川温泉へ」というイベントを実施し、ポケストップにルアーモジュールを設置するだけでなく、ポケストップの案内地図を作成してポケストップになっている箇所の案内を載せたり、店舗と連携して充電サービスを行ったり、「かもねぎラーメン」等のイベント商品も販売するなど多くの企画を行い、大々的に実施した。
この様子は地元のテレビ局だけでなく、NHKの全国放送でも取り上げられるなど、かなりの宣伝効果も上げている。
宮城県では、ポケモンGOを用いた被災地誘客に3000万の予算を計上しており、予算の中には被災地限定のポケモンなど、ゲーム運営会社ナイアンティックへのシステム改修費にも500万円を盛り込んでおり、これが実現されるとマーケティングの活用範囲がさらに広がることになる。
4.「ポケモンGO」のこれから
現在ポケモンGOに登場するポケモンは『ポケットモンスター 赤・緑』に登場した151種(実際に捕獲できるのは現在145種とも言われている)である、これまでに任天堂のゲームに登場したポケモンは全部で721種類であり、まだまだ今後新たなポケモンが登場することが予想される。
その中にはミュウツーやルギアなどの伝説のポケモンと呼ばれるものも多く、これらはイベントとのタイアップのみでしか入手できない可能性が高い。これらが入手できるイベントがあればかなりの集客が見込めることになる。
またゲーム機のポケットモンスターには「育て屋さん」や「ポケモンセンター」等があり、今後これらが設定される可能性もある。
マクドナルドやソフトバンクは既にスポンサーとしてすべての店舗がポケストップやジムに設定されているが、新たに育て屋さんなどに設定された場所にはかなりの集客が見込める。これらが設置される場合には恐らくスポンサー契約した所に限定されるものと思われる。一か所あたりどのくらいの費用が掛かるのかはわからないが、費用対効果によってはスポンサーになることも選択肢になると思われる。
5.最後に
「ポケモンGO」が単なるゲームとして軽く見てはいけない。
ソーシャルメディアの登場によって、企業が顧客に情報を伝達したり、会話をするためのツールは数多く登場しているが、人を動かせるツールは、初と言える。
飲食店や小売業がいかに自分の店に足を運んでもらうかが一番の課題であり、その他の企業においても自社のイベント(展示会・発表会など)にいかに多くの顧客に足を運んでもらうかが課題になる。
「ポケモンGO」はそれらの課題を解決できる新たなメディアになりえる可能性がある。今後「ポケモンGO」の類似ゲームも多数登場すると思われるが、それらも含めて注目して行きたい。
以上